激変する高齢者の血糖コントロール

2016年5月26日

日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が、2016年5月20日に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」を発表しました。今まで年齢や性別など、個人の背景に関係なく正常値や目標値を設定していた血糖コントロールのガイドラインが大きな変貌を遂げました。

厳格な血糖コントロールを患者さんに課すと、しばしば低血糖を起こすリスクがあることは医師の間ではよく知られていた常識でした。高齢の糖尿病患者さんの治療では、その認知機能や身体機能といった個別の条件を考慮して、重症な低血糖を防がなければ、認知症が悪化することも懸念されていた問題でした。しかし、今まで糖尿病学会の治療ガイドラインは患者さんの年齢を考慮していませんでした。

病気の治療に前向きな働き盛りの若い患者さんでは、運動療法に積極的に取り組み、服薬指導をきちんと守り、食事療法に対する意識も高いことが多いので、厳格な治療法を行うことが可能です。低血糖を避けるための指導や処方の変更に対しても柔軟に対応する能力があります。
一方、認知症を発症している高齢者では、運動療法も難しく服薬も守られず、規則的な食事もままならないケースも多いですし、低血糖時の対応を指導しても守れない可能性があります。
同じ糖尿病の患者さんでも、この様にバックグラウンドが異なるグループを画一的に治療することは無理があります。

カスタムメイドの糖尿病治療目標⁈

今回発表された「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」は、次の3つの基本的な考え方で構成されています。

(1)血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態:年齢、認知機能、身体機能(基本的ADLや手段的ADL)、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定すること。

(2) 重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと。

(3)高齢者ではこれらの目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性を重視した治療を行う観点から、表(別表省略)に示す目標値を下回る設定や上回る設定を柔軟に行うことを可能としたこと。

高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)では、まず患者さんの特徴・健康状態に応じて大きく3つのカテゴリーに分類されました。その中でも重症低血糖が危惧されるインスリンなどの薬剤の使用の有無で2つに分類(カテゴリーIでは年齢でも2つに分類)して血糖コントロールの目標値を定めています。
高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)
※原文の専門的な用語をわかりやすく意訳し、編集してあります。

カテゴリーI ( 認知機能正常で自立した日常生活が可能)
◆薬剤使用なし→ 7.0%未満
◆薬剤使用あり:
◯年齢 65歳以上75歳未満
7.5%〜6.5%
◯75歳以上
8.0%〜7.0%

カテゴリーII (軽度認知障害~軽度認知症があるが自立して生活できる)
◆薬剤使用なし→ 7.0%未満
◆薬剤使用あり→ 8.0%〜7.0%

・カテゴリーIII(中等度以上の認知症または基本的日常生活能力の低下または多くの併存疾患や機能障害)
◆薬剤使用なし→ 8.0%未満
◆薬剤使用あり→ 8.5%〜7.5%

とされています。

治療目標は、基本的には患者さんの年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して決定します。さらに高齢者では認知機能や基本的日常生活能力、併存疾患なども考慮して個別に設定することになります。そしてその目標設定にあたっては「加齢に伴って重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する」という注意が併記されています。 要は、高齢者の糖尿病治療では画一的なガイドラインに沿って治療するのではなく、患者さんの状況に応じて個別に目標を設定して低血糖を避ける必要があるということです。

敢えて要約すれば、今回出されたガイドラインは、「認知症の進み具合や日常生活能力に合わせて治療目標を加減して、低血糖を避けるように注意しましょうね」ということですね。

白内障の手術治療に際しても、コントロール状況の目安としてHbA1c値は重視されてきました。手術予定患者さんの血糖コントロールが不良の場合、内科主治医からストップがかかったり、逆に眼科から内科主治医に糖尿病治療の強化をお願いするようなケースも多かったのです。これからは、眼科医も糖尿病主治医の意図や目標としているHbA1c値に配慮して手術の適否を決定しなければならないという難しい対応が求められそうです。

 

引用元
糖尿病学会の高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について
http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=66

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